日本酒の街で、伝統を守り続ける酒蔵”神戸酒心館”
道の駅がある神戸市北区は、日本一の酒米”山田錦”の産地。
おいしい酒米を作る為には、豊かな土壌と、きれいな水、そして昼夜の寒暖差が必要。神戸は温かい瀬戸内海と、長い年月をかけて隆起した六甲山のおかげで、おいしい酒米が育つ条件がそろっていました。
さらに神戸は酒米だけでなく、酒造りにも最適な環境がありました。ミネラル豊富な天然の地下水と、六甲おろしの冷たい風。これらの自然環境のおかげで、神戸は酒造りの街として発展してきました。
「灘五郷」という言葉をご存知でしょうか?
神戸から西宮にかけて酒造りが行われている、五つの地域の総称です。日本一の酒どころとして名高く、生産量も日本一を誇っています。
灘五郷のうち御影郷の酒蔵の一つ、「神戸酒心館」でも、神戸の自然の恵みを活かして酒造りが行われています。260年変わらない丁寧な方法で。今回はそのこだわりをご紹介します。
「酒造りは足し算ではなく掛け算。何か一つでも間違えると、結果が異なってしまう」
日本酒は大きく分けると ”洗米・浸漬 → 蒸米 → 麹(こうじ) → 酒母(しゅぼ) → もろみ → 上槽(じょうそう)” という工程を得て造られます。その全てが大切なのだと、神戸酒心館・支配人の湊本さんは言います。
日本酒の原材料は米と水。シンプルなだけに、完成に至るまでの複雑な過程のなにか一つでも不具合が出ると、おいしい日本酒にはならないそうです。
「酒造りは足し算というより掛け算です。一つ一つの工程があって、その工程をきちんとやっていくと、(作業の)掛け算で最終的に答えが出る。どれかひとつでもできていないと、計算式がくるってしまって望み通りの答え(=味)にならない。」
日本酒を造る上では”麹(こうじ)”の作業が一番重要だと言われ、発酵に入った段階では、その後の道がほとんど決まってくるのだそう。それでも、米洗いから最後の時まできちんと管理しなければ、日本酒の味は完成しません。
「正しい道にいくかどうか。がんばって良い学校に行ったのに、その後ふらふら遊んでバイトばっかりでゼミも行かず、というような状態にならないように、導いてあげるのが大切です。かといって、手をかけすぎて、過保護になってもダメ。きちんと見守るんです。」
一人前になるまで、きちんと見守ってあげないといけない子育てに例えて教えてくれました。その表情はとても優しく、日本酒への深い愛情を感じました。
8人の職人さんから生み出される、世界にも通用する日本酒
神戸酒心館を代表する日本酒に”福寿”というブランドがあります。飲んだ人に幸せが訪れるようにと、その名がつけられています。福寿は世界にも認められている品質で、ノーベル賞の公式行事でも続けて提供されています。
「ここで味が評価されたから、きちんと広がった。”なんやここ、名前だけや”と思われなかったのは、皆さんのおかげでしっかり真面目に酒を造り続けてこられたから」と、湊本さんはいいます。
福寿をはじめ神戸酒心館のお酒は、伝統をしっかりと受け継ぐ丁寧な手作業で造られています。
量にして年間約3000石、1升瓶に換算するとなんと30万本にもなる神戸酒心館のお酒を造るのは、現在は8名の蔵人さん。
熟練の技を持つ8名の確かな技術によって、今も変わらない、ぶれないおいしさが私達の元へ送り届けられています。
「いろんなお酒を楽しんでほしい。でも戻ってきていただけるお酒として、福寿が選ばれれば。」
日本は今、世界でも珍しい程世界各国のお酒がそろう国。でも、残念ながらその時代の流れ中、自国のお酒である日本酒は飲まれる量が減ってきています。それでも良いのだと、湊本さんは言います。
「決して日本酒だけを飲んでほしい、というわけではないんです。お料理には色んな食材や味わいがあり、バリエーションがあるから。でも毎日食べても飽きないのは、やっぱりシンプルなもの。白米と同じ。今日はワインを飲もう、今日はウイスキーを飲もう。そしてたまに、日本酒に、福寿に戻ってきていただければ。」
湊本さんはとても謙虚でおられ、決して押しつけがましいことは言いません。それもきっと、福寿を、神戸酒心館のお酒に本当に自信があるから。”おいしさが分かっていただけたなら、きっとまた飲んでもらえる”と信じているからではないでしょうか。
神戸の酒蔵から発信し続けられる、伝統と新しい酒蔵文化
現代の日本では、日本酒が歴史の中どうやって飲まれてきたお酒なのか、原材料はなんなのという事すら認識されていない事も多いそう。
そこで神戸酒心館では”まずは知ってもらう”ために、日本酒の基本を伝えるビデオを作ったり、きき酒とお酒が楽しめる喫茶カウンターの用意、イベントの開催、オリジナルスイーツやグッズの販売など、日本酒を知らなくても楽しめる工夫がたくさん。私もあまり詳しくなかったのですが、日本酒にまつわる商品がたくさんあって、とても楽しませていただきました。蔵見学や酒蔵ウエディングなど、ユニークな取り組みもおもしろいですね。
「来てよかったな、また来ようね、と思ってもらえるように心がけています。接客も。一回来て”もういいか”ではいつか忘れられる。」
たしかに、神戸酒心館の従業員の方はみなさんとても笑顔が素敵でした。それはみなさんが商品に愛情を持っておられるからなんだと感じました。湊本さんは神戸酒心館に来て、日本酒の奥深さに魅了され、気付けば17年が経っていたそうです。それでもまだ、表面しかわかっていないのだと。
神戸酒心館のお酒を、FARM CIRCUS MARKETでも販売しています。
特に、加熱処理をしていない為に扱いが難しい”生酒”の量り売りをしているのは、神戸酒心館の蔵元か、FARM CIRCUSだけ。フレッシュな味わいで、女性にも優しい飲み口。日々のお酒のレパートリ―に加えてみてはいかがでしょうか。
神戸酒心館は夜になると、壁がライトアップされ、人の手が映し出されます。
優しい人の手で、大切に大切に育てられた神戸酒心館の日本酒。ぜひ一度お試しください。
株式会社神戸酒心館 〒658-0044 神戸市東灘区御影塚町1-8-17
定休日:年中無休(年末年始を除く)
神戸酒心館へのお問い合わせ TEL:078-841-1121 【電話受付】10:00〜17:00
さかばやしのご予約 TEL:078-841-2612 【電話受付】11:00〜21:00
【記・撮影 太田萌子】