農業を楽しんでおられる4名の農家さんが、チームで運営する神戸市北区のブルーベリー農園

農業を楽しんでおられる4名の農家さんが、チームで運営する神戸市北区のブルーベリー農園

FARMCIRCUSから車ですぐのところに、『摘み取り園 神戸北ブルーベリーヒル』というブルーベリー農園があります。
農家さん4人がチームになって共同で管理しておられ、100%有機肥料栽培で育てておられます。
兵庫認証食品“安心ブランド”にも登録されていて、安心して食べられる。
そんなブルーベリーを育てておられる仲良しな4人の農家さんを取材しました。

ブルーベリー園を管理しておられるのは、
神戸市北区の圃場(※)で、風(ふう)ファーム根木いちご園を営む根木さん、
神戸市西区神出町でアオラニガーデンを営む、南さんと山本さん、
そして神戸市西区にご自身の畑を持つ若手農家の井上さんです。
(※圃場…農作物を育てる田畑のこと。畑。)


(左から順に、井上さん、根木さん、山本さん、南さん)

実はこの4人の農家さんは、6年前に農業学校を卒業された新規就農者さん。
楽農生活センターの就農コースの同級生で、一緒に色んな農場へ見学に伺ったり、
卒業してからも支え合いながら新規就農者としてそれぞれに農業を営んでおられます。
その傍ら、週に1回程度集まってこのブルーベリー園を管理しているそうです。

皆さんが4人でブルーベリー園を始めたきっかけは様々で、それぞれの想いやタイミング、ご縁など
色んなことが重なり、神戸市北区のこの場所でブルーベリー園を始められました。

きっかけの一つは「フレッシュなブルーベリーの味わいを伝えたい」という気持ち。
一般的にスーパーに流通しているブルーベリーは輸入物の冷凍が多く、
国産の生のものを見かける事はあまりありません。
色んなブルーベリー園をたくさん一緒に回られた皆さんは、
国産のフレッシュブルーベリーのおいしさを知ってほしい、という気持ちがありました。

そんな折、井上さんの知人の紹介で、北区でブルーベリー農園を営む農家さんに出会いました。
当時、引退に向けて農地を譲ったりしておられた農家さんが元々普通の畑として使っておられたところで、
1年ほどブルーベリーの栽培を教わった後、その土地を譲り受けてブルーベリー園を始める事にしたのだそうです。

「農業始めた時の最初の目標は“ブルーベリー、ストロベリー!”だったので。笑
以前福岡に住んでいたんですが、九州ってお水がとってもきれいなんですよ。阿蘇の水とか。
だから、その水を使ったブルーベリー園がちょこちょこあったんですけど、その味が忘れられなくて。
日本でこんなの食べられるんだ!と驚いて、その感動を伝えられたらって思っていました」と、
井上さんが話してくれました。

経歴も就農のきっかけも違う、だからこそ8倍にも10倍にもなる。

それぞれの農家さんは、就農のきっかけも就農前にやっていた事も皆さん違います。

南さんは、以前は制御システムに関わるお仕事をなさっていた理系の思考を持ったお方です。
農業を始める前もまずは10年計画を立てたのだとか。

農業を始めて5年は自分の農業の方向性を決める期間、後の5年は自分の農業を成立させる期間と決め、
合計10年かかると考えそこから逆算して55歳に退職する事を決められました。

しかし、結局会社の承認がおりず、退職できたのは「56.5歳」なのだそうです。
何気ない一言からもきっちりとした南さんのお人柄が伺えました。

「今で6年目なんですけど、やっぱり方向性の確立に5年かかりました。
今は黒字化する為の取組を考えています。小規模な農家なので他と同じことをやっていても埋没するので、
他の農家さんが作ってないものを作ったりして、野菜類で独自性を出して対応していきました。
野菜以外では、ブルーベリーはみなさんと一緒にやっていますが、自分の農場でもブルーベリーをメインに
柑橘系およびハーブ栽培でも独自性維持のため少量多品種で栽培しています。
それはそこそこうまくいっているのですが、翌年には同じようなものが市場で増えてしまって。笑
せっかく新しいものを見つけてきても、1年で効果が薄れてしまうケースもみられるようになりました。
そこで、加工を施し更なる独自性を構築することで、他の農家さんとの差別化、単価UPができるように考えています。」

南さんと共に農園を営んでおられる山本さんも、新しいハーブに取り組んだり、
乾燥ハーブを使ったハーブティーなどの加工品を考えておられるなど、
新たなことに積極的に挑戦しておられます。

「今は和ハーブである和薄荷(ハッカ)の栽培に力を入れています。
和薄荷は、メントールの含有量が65~85%もあるんですよ。
あとは、乾燥ハーブ。冬にハーブってとても少ないですからね。でも冬場もハーブ、ほしいじゃないですか。」

一方根木さんが農業を志したきっかけは、南さんとはまた違ったものでした。

現在神戸市外にお住いの根木さんは、ご自宅の近くで通学路沿いの家庭菜園を借りられた事がきっかけで、
通りがかりの人に声をかけられるようになったそうです。
夏になったトマトの世話をしていると「おっちゃんそれ何やってんの?」「食べ物を栽培・収穫するって良いですね。」と、いろんな方から声をかけられることもあったそう。

「(農場や農業の事は)知らない人は知らないんですよね。
そういう人に、『体験』ができる摘み取り農園とかを紹介できるような仕事がしたかったんです。
こんなに楽しい体験の場がある事を紹介したくて、農業を始めました。
体験しなかったら楽しさが通じるわけがないと思ってるので。
この農園も、いつかはそんな摘み取り園にしたいです。」

農家さんになったきっかけも、それぞれが持っておられるスキルも人脈も違う。
だからこそ、集まれば4倍どころか8倍にも10倍にもなるんだと、根木さんは話してくれました。

“農は接着剤”笑い声が絶えないチームのみなさん

新規就農者さんを取材していると、感じる事があります。
それは、みなさんとても楽しそうだという事。
今回の取材したみなさんも例に漏れずとても楽しそうで、
農業がもつ力について前向きな事をお話してくださった事がとても印象的でした。

南さん
「農業って、不思議な力があるんですよ。さっき差別化とか言ったけど、ライバルじゃない。
情報を出し合って“一緒に頑張ろうぜ”ってなるんです。
人との触れ合いがすごくあって、サラリーマンの時には体験しなかったような感激というか、
魂の触れ合いがありましたよね。人生の最後にやる仕事として、ちょうど良かったなって。」

根木さん
「ある方が講演の中で “農は接着剤”っておっしゃったんです。その言葉が、すごく腑に落ちました。
年齢とか性別、職業や地域を問わずに、“農”があれば繋がれる。
人生が豊かになるっていうのはすごく感じています。
でも小さい声で言いますけど、食べていくのは大変ですよ。(笑)」

山本さん
「農業の様子をSNSで発信していると、色々な方が見学に来られます。
シェフやパティシエの方ともしっかりお話して、少量栽培であることをご理解頂いた上で、皆さんと楽しくやらせて頂いています。人生で今が一番幸せで楽しいです。」

井上さん
「私は結構、一人で農業やってて。だから孤独な事があるんですよね。
けど週に1回ここに来るとみなさんとお話しできて、最近どう?って話したりして。
情報交換もできるし。今年はキュウリがうまくできたから、来年もやってみようってやってみたら、
全然ダメだったり。こんな失敗も一緒に笑いながら、次はどうしたらいいのか考えるのも楽しかったり。
今がすごく楽しいです。」

取材の日はあいにくの悪天候で雨が降っていました。
しかしその雨音にも負けないくらい、たくさんの笑い声が響いていました。

いつか観光農園として、よりたくさんの方が訪れる農園になられたあかつきには、
笑顔の絶えないブルーベリー農園になるのでしょう。

【記・撮影 谷口】

Share This Page

Related Post