『集客力と販売力がもてるイチゴ農家を目指して』濃恋のうえん・西村大也さん

『集客力と販売力がもてるイチゴ農家を目指して』濃恋のうえん・西村大也さん

愛知県の農業メーカーで4年、兵庫県の農協で5年間トマト一筋に勤めあげ、
出身地の関西で就農しようと神戸にやってきた西村さん。
地域密着で、お客さんの顔を見ながら美味しいものを提供したいという思いにピッタリだと、
イチゴ栽培に挑戦しています。
観光農園と出荷の展望についてお話を伺いました。

【人をひきつけるイチゴの魅力】
トマトの栽培指導でコンサルタント業務にあたりながら
後継者の育成にも携わってきた西村さんは、神戸で就農したときトマト栽培を考えてみましたが、
最初に借りた農地が現在の神戸市北区で気候が比較的寒冷だったことから、
イチゴ栽培に挑戦することにしました。

イチゴの魅力はなんといっても「嫌いな人がいないこと」
また、イチゴ狩りやジャムなどの加工品にするなど販売方法が多いのがよいといいます。

【収穫のタイミングが命のイチゴ栽培】
現在は「章姫(あきひめ)」「紅ほっぺ」、そして今年から「かおりの」にも挑戦しています。

「かおりのは名前の通りかおりがいい。酸味も少なめ。章姫より酸味が少しあり、
紅ほっぺよりは酸味はない。章姫と紅ほっべの間に入っていける品種なのではないかと思っている。
イチゴ狩りといえば、章姫と紅ほっぺが多く、このへんは、章姫が多い。」

「章姫と紅ほっぺの収穫がだいたい12月で、かおりのは収穫時期がそれよりずれる。イチゴ狩りといった観光をメインにやるので品種をみないといけない。収穫のタイミングがかぶると大変。」 

ハウスの広さは20アールで、7人のパートさんを雇い神戸での就農も2年目に入りました。
直売所も併設されていて、収穫した70%はここで売られ残りはファームサーカスに出荷しています。

「イチゴは集客力が強い」そう語る西村さん。
もともと地元には「二郎いちご」という人気品種があり、観光農園としても成功しています。
地産地消のパイオニアともいえる「二郎いちご」は、多くの人が求めてやって来ます。
西村さんの観光農園もその人気にあやかる形で、観光客が訪れるといいます。
しかし今はたくさんの観光客を受け入れたい半面、イチゴの収穫量に限界があり、
今は一日一組限定の予約での運営です。

「まず、駐車場がない。しかもあまり入れると直売所にイチゴがなくなってしまう状態。基本的にはホームページに少しのせて、直売所の常連さんがメインで訪れている。」

【お客様と対面できるイチゴ農家であることの喜び】
来年にはさらに20アールのハウスを、観光農園用に増やす予定です。
それでも西村さんは、大規模にイチゴを栽培して出荷することは考えていません

「とにかくここはいい地域。人があったかいしやりやすい。実は田舎はもっと堅苦しいと思っていた。ところが始めてみたら近隣の人が一番に買いにきてくれる。応援してくれているかなと思っている。それに、都市部からも来れるところにあるので、観光農園や直売所への集客もやりやすいかな。」

採算とやりがいの間にありながら、それでも対面でできる農業は、例えば観光農園で子どもが喜んで、
その子どもの顔を見て親も喜んでという連動を生み、西村さんにとってのやりがいとなっています。

お客さんとの距離が近いほど新鮮なものを提供できる上に、反応をダイレクトに感じている日々。「『ちょっと味が薄なったな』と常連さんはいってくれる。自分も定点で食べているから、自覚している。ありがたい。」

「愛知にいるときの1ヘクタール2ヘクタールのハウスで、大規模にめちゃくちゃお金かけて、利益あげる!というのではない。ちょっとこっちにきたら違うな、と。日本の食をまかなうとかじゃなく、地域密着で消費者に近い。顔を見ながら美味しいものを提供するという路線になった。」

そして西村さんにとって、ここ神戸市北区は人は少ないながらも、
一人一人の力がある生産地だと感じています。

「例えばファームサーカスさんは、いいものを適正な価格で売る。お客さん目線でお客さんがどういったものを欲しがっているかをすごく考えている。持っていく側からも感じるし雑に扱われない。丁寧に時間かけて栽培しているので持っていく場所としてはありがたい。」 

観光農園を軌道に乗せるためには駐車場拡大への許可、ハウスの建設で起こる問題への説明など、
とにかく地域の人たちの理解は不可欠です。
多くの理解への感謝の気持ちは、農業で地域を盛り上げたいという将来の希望につながっています。

【デジタル技術を取り入れたイチゴ栽培の未来】

西村さんのイチゴ栽培は、基本的には水やりなどパソコンで自動コントロールするソフトで行っています。
天候や気温など50項目ものデータを常に分析し、設定の微調整を繰り返します。
それでも西村さんが感心するのは、「長年の勘」。

「去年は味がよくても、今年もいいわけじゃない。どれだけパソコンで制御しても天候によっていろいろある。再現性のあることをやっていかないといけない。温度の変化などしんどいところでもある。勘で出来る人は、ホンマに技術あるなと思う。技術がないのでとにかく調べまくってやっている。」

午前2時や3時から収穫して9時から販売するというやり方、
そしてできるだけ完熟でできるだけ新鮮なものを届けるということは、
デジタル技術を導入してもやめられないといいます。
農業大国オランダではAIを使ったカメラ自動制御ソフトによる大規模栽培や、
アメリカのニューヨークでは植物工場でのイチゴ栽培が農業の新しいビジネスモデルを作っています。

「いろんな場所で農業ができたらおもしろいな。イチゴが横にあると心が動く。イチゴは可能性しかない。」

美味しいイチゴを食べてもらいたいという思いが、
これからも西村さんの人生をつき動かす原動力になり続けると感じられる取材でした。

※記事は取材当時の内容となります。

農恋のうえん公式サイト

【記・撮影 谷口】

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