「教科書通りでは生み出せない」旨味たっぷり、山口さんが育てるトマト

「教科書通りでは生み出せない」旨味たっぷり、山口さんが育てるトマト

ファームサーカスマーケットで販売している野菜の生産者さんたちを訪ねる企画の第2回。
今回は大沢(おおぞう)町のトマト農家、山口さんにお話をうかがいました。

トマト嫌いの子どもでも食べられると大好評の甘いトマトには、どんな思いが詰まっているのでしょうか。

(第1回はこちら → 愛情と水分がたっぷり詰まったレアなタケノコ、好評販売中です。)

ミツバチが飛び交うハウス内で育てられる2000本のトマト

ハウスの中に入ると鼻腔いっぱいに広がるトマトの青い匂い。さわやかで思わず何度も深呼吸しました。
生い茂った枝葉を処理する過程で葉が地面に落ちてはいますが、とても綺麗な環境です。

本来ならもう出荷の時期ですが、今年は天候不順でトマトがなかなか赤くならないとのこと。
約2000本の苗に実をつけたトマトたちが、収穫の時期を待っています。

ハウス内では受粉のために飼育されているされているミツバチが忙しく働いていました。
「作業の時に寄ってきて手に止まったりと、すごく人懐こい蜂なんですよ」とのこと。

ミツバチは在来種のものを使用されています。外に逃げた時に生態系が崩れることを考慮しているんだそうです。

育てているのは大玉のトマトに、「千果」「ぴんきー」「きらーず」といったミニトマトと、写真の「サンマルツァーノ」です。

サンマルツァーノはスーパーではあまり見かけない、細長い形のトマト。まだ緑色の状態だとピーマンのよう。
主に料理用として使われるトマトで、収穫が始まったらファームサーカス内のデイズキッチンでもサンマルツァーノを贅沢に使ったトマトソースのお料理を提供する予定です。

トマトを育てる工夫のひとつが、ひとつのポットに対して一本の苗を使用することです。

理由は、トマトを甘くするため。

トマトはストレスを与えると甘くなると言われているので、限られたポット内で根を張らせてストレスを与え、甘みやおいしさを引き出しているんだそうです。

ポットを使うデメリットは、毎回土を入れ替える必要があること。ハウス内で栽培しているトマトはだいたい2000本。つまり収穫後は2000個のポットの土を入れ替える必要があります。とても大変な作業です。

教科書どおりでないほうが、人間もトマトも面白い

まだ緑色のトマトの状態を確認する山口さん。
トマトの色を赤くするためにはハウス内の温度を上げるという方法もあるのですが、山口さんは待ちの姿勢を崩しません。

「温度を上げれば色はつきます。でも味が乗る前に色がつくからおいしくない。トマトづくりの教科書では、18〜26℃が生育の適温と言われていますが、教科書通りに作ってもおいしくないと自分は思う」

「人間でもそうですが、甘やかされて完璧な環境で育つより、いろいろな経験をしている方が面白みがあるでしょう。トマトも一緒だと思うんです。みんなが同じやり方をするなら、僕のトマトでなくてもいい。ここだけのトマトの味を出したいと思っています」

トマトを作るうえで大変なことは、やはり天候への対応だそうです。

「今年は台風でひとつハウスが飛ばされました。このハウスは無事だったんですが、それでも横を覆う虫よけのネットはダメになって買い替えました」

「5年前に大玉のトマトから栽培を始めましたが、ちょっとした天候の変化で良いトマトにならず、価格が落ちてしまいました。そうしたリスクを回避するためにミニトマトも作りはじめました。品種が増えてリスクは減りましたが、ミニトマトは実の数が多いので収穫が大変です」

ミニトマトは鈴なりに実をつけます。作業量を想像するとめまいがしそうです。

「実は自分はあんまりトマトが好きではないんです。トマトを作り始めた理由も、当時周りにトマト農家がなかったから。
でも、やっぱりトマトを好きって言ってくれる人がいると嬉しい。今年は出荷が遅れているから『早くして』との声もよくいただきます。嬉しいですよね」

トマトをあまり好きではない、と照れを隠すようにそう言いながらも、作業する山口さんの目はとても優しく感じます。

みずみずしくて濃い味のトマトは子どもにも人気

一足早く色づいたトマトを、少しだけ試食させていただきました。

口に運んだ瞬間、プチンっという音とともに甘みが口の中に広がり、思わず「おいしい」と声が漏れました。水っぽさはないのに、みずみずしく濃い味。いつまでも旨味が口に残ります。

「トマト嫌いのお子さんでもうちのトマトだったら食べられる、と言う声も聞きます。とてもありがたいことだと思います。自分の名前を出して販売するということは味で勝負するということだと思っていますので、この味は落としたくありません」

おわりに

ゆっくりと色づき始めたトマト。待ちに待った収穫までもうすぐです。
入荷状況はSNS(FacebookInstagram)でもお知らせしますので、チェックしてみてくださいね。
山口さんのトマトは、道の駅の在る大沢町でしか手に入りません。

ここだけでしか味わえない、甘みと旨味たっぷりのトマトをぜひ一度、お召し上がりください。

(記・さかた えみ)

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