ワイン用ブドウを、次世代につなぎたい。上大沢グレープのブドウ栽培。
目の前に広がる美しいブドウ畑。
神戸市北区にこんな景色があることをご存じですか?
ここは、FARM CIRCUSから車で5分ほどの場所に位置する、神戸市北区大沢(おおぞう)町上大沢地区。今回は、この場所でワイン用のブドウを生産されている、農事組合法人上大沢グレープのみなさんを訪ねました。
「ここは、平成元年に山を切り開いた土地です。もう35年も前になるんやね。我々の親世代と神戸市が、ここでワイン用のブドウをつくるということで話が決まり、栽培がはじまりました。地域としてもブドウを栽培するのは初めての試みだったそうですよ。」
その面積なんと10ha。甲子園3つ分に迫る大きさです。今回お話を聞いたのは、上大沢グレープの辻井稔さん。8月末の収穫の時期に、メンバーのみなさんも休憩時間の間に集まっていただきました。
普段は各自でも農家として野菜やお米を栽培されていて、上大沢グレープのブドウ栽培は全員が兼業のような形で関わっているそうです。
「当初から品種は3つ。赤ワイン用のカベルネ・ソーヴィニヨンと白ワイン用のシャルドネ、それから5年後に植えられたのが白ワイン用のリースリングやね。ブドウは、苗木を植えてから5年前後で収穫がはじまり、これまで30年間に渡って毎年収穫ができています。」
ブドウは、こうして8月から10月にかけて収穫の時期を迎えます。冬には、枝の形を整えるために剪定し、春を迎えると芽が出てくるので誘因作業を行い、バランスのよい枝の状態をつくります。
その後も不要な房や葉を落としていく作業や、病気が蔓延しないように薬の散布、そして畑の草刈りと年間を通して作業が続き、再び夏に収穫をすることができます。
そうして神戸の地で育ったブドウを原料とした神戸ワインは、近年非常に評判も高く、2019年のG20大阪サミットでは、当時のトランプ大統領をはじめ各国の首脳にも振る舞われました。
しかし、上大沢グレープのブドウ栽培には、続けていくための大きな課題もあります。
「年々気温が上がっていくことや、真夏に雨がほとんど降らないことなどにより、栽培がとても難しくなっています。昼間の気温はもちろん、夜間の気温が下がらないことが生育環境にはマイナスで、高温障害によりブドウが焼けてしまうようなケースが増えてきています。」
近年の環境の変化は、ブドウに限らず農業において大きな影響を及ぼし始めています。また、鳥害の被害も増えていくなど、上大沢グレープのみなさんは様々なリスクに頭を悩ませています。
かつては、雨不足対策としてスプリンクラーの設置をしていたそうですが、そうした対策に手が回らないもう1つの課題があります。
「人がおらんね。昔は十数人で回せていたことが、今は4~5人が精一杯やから、1人で3人分の仕事をするのはやっぱり難しい。そして、今は若い人でも70代。80代や90代の人になんとかがんばってもらって続けているけれど、この先どうなるか分かりません。
一般的なブドウ園の経営方針であれば、適宜苗木を植えて新しい木を育てていきますが、我々は次世代の引き継ぎ手が見えていないのでそうしたこともしていません。
今のブドウの木はすべて30~35年前に植えたもの。ブドウの木の寿命は30年とも50年とも言われているので、このままだといつの日か全て同時に寿命を迎えてしまいます。」
上大沢グレープのみなさんは、自分たちの故郷や、先代がつないできたことを懸命に守り続けています。
辻井さんはふと、「アルバイトとして、週2回でも3回でも来てくれる人はおらんかの。」と声を発しておられました。
私たちの食を彩る美味しいワインや、ブドウをつくる環境を次世代につないでいくために、もしご興味があったら仲間に加わってみませんか?
【記 鶴巻耕介 撮影 FARM CIRCUS】