地産地消を遊ぶ新しいファームカフェが北鈴蘭台にオープン!その想いを聞いてみました。
地産地消を遊ぶ新しいファームカフェが北鈴蘭台にオープン!その想いを聞いてみました。
神戸市北区北鈴蘭台エリアの再開発における賑わいづくりを目的として、2024年4月に食と健康とコミュニティのパブリックハウス「KITASUZU HAUS」がオープンしました。
その施設の目玉として、神戸で創業30年の人気カフェ「Mother Moon Cafe」と、地産地消を盛り上げる神戸市北区の道の駅「FARM CIRCUS」が手を取り合い、新しいファームカフェ「マザームーンカフェ×ファームサーカス 北鈴蘭台店」をオープンしました。今回は、両社の代表にその想いやコンセプトを聞いてみました。
【Mother Moon CafeとFARM CIRCUS】
―まずは、それぞれの取り組みから教えていただけますか?
高山さん:FARM CIRCUS代表の高山壽弘です。FARM CIRCUSは、2017年3月にオープンした、神戸市北区大沢(おおぞう)町にある道の駅です。当時、神戸市立フルーツ・フラワーパーク(※)に道の駅をつくる計画が決まり、どうやら首都圏にある大企業が応募してくるらしいと。その中で、やはり地元の者が地元のために運営する方がいいのではないかという話になり、様々な方の力を借りながら私たちが運営できることになりました。(※)神戸フルーツ・フラワーパーク大沢:1993年4月に開園した、農業振興および都市と農村の交流を目的とした花と果実のテーマパーク
―高山さんは農村地域である大沢町出身です。道の駅を運営する上で意識したことはありますか?
高山さん:同世代に専業農家の方がいて、農業だけで食べていくのは中々難しいと聞いていました。農業を取り巻く課題は多岐に渡りますが、こだわってつくり、絶対いいものだという自信があれば、自分で値段をつけて売れる場所が必要なのではないかと思いました。そして、単に場所を提供するだけではなく、売るための工夫を私たちも一緒にやります。ポップを工夫したり、試食販売をしたりするなど、ビジネスとして多くの野菜を売っていくということを責務として取り組んでいます。
―ありがとうございます。では、Mother Moon Cafeについても教えてください。
朝野さん:Mother Moon Cafe代表の朝野甚太です。Mother Moon Cafeは1993年に創業し、関西圏に15店舗(※2024年8月現在)を展開しています。私が入社したのが1999年で、当時は大学生でした。Mother Moon Cafeは、カフェ文化のパイオニアとして雑誌などにも数多く掲載され、憧れのような場所でした。
―当時、飲食に関わろうと思った朝野さんの気持ちを教えてください。
朝野さん:誰かが喜ぶことをやりたくて、その手段として飲食業にすごく魅力を感じていました。また、当時のMother Moon Cafeは深夜まで営業していて、店内でイベントを企画するなど、様々なカルチャーの発信源でした。カルチャーを自分たちでつくるという姿勢がかっこよかったんですよね。
―現在は経営者として関わっています。
朝野さん:はい。創業社長には様々な挑戦機会や経験を積ませてもらいました。その後、様々な変遷を経て、2020年に私が会社をつくり、Mother Moon Cafeのブランドを引き継ぐ形になりました。
【町全体の印象が変わる時に、新しい空間を生み出したい】
―それでは、カフェが入っている「KITASUZU HAUS」という複合施設をつくることになった経緯から教えていただけますか?
高山さん:北鈴蘭台エリアには、元々桜の宮住宅という神戸市最大級の市営住宅がありましたが、老朽化によって全てを建て替えることになりました。その再開発にあたり、沿道の賑わいづくりとして、道の駅の直売所のようなものをできないかと問い合わせがあったのが最初です。
―その話を聞いて、率直にどう思いましたか?
高山さん:こうした再開発は、エリアの一部分だけというのがほとんどです。しかし、今回は町全体がリニューアルし、町自体の印象までもが変わる規模だったので、可能性は感じましたし、何か力になれればと思いました。ただ、直売所だけではビジネスとして難しいので、飲食や物販なども含めた場所であればと提案しました。
―そうした場所は、FARM CIRCUSとしてつくろうと?
高山さん:当初はそう考えていました。一方で、我々もFARM CIRCUSでの飲食事業の経験年数が長くなく、また社員数も少ない中で、ノウハウや運営に不安がありました。そうした中、神戸発祥のカフェを探していた時に、Mother Moon Cafeがピンときたんです。
―それはなぜですか?
高山さん:カフェ業態で、地元の地産地消をメインに押し出しているところは中々ありません。一般的には、カフェ空間のおしゃれさとか、コーヒーへのこだわりなどを売りにしますよね。Mother Moon Cafeは、地元の野菜にこだわって、地元のものを使いたいというコンセプトだったので、話が合うのではと声をかけさせてもらいました。
―朝野さんは問い合わせがあったときの印象を覚えていますか?
朝野さん:すごくありがたいし、うれしかったですね。私も以前から相通ずるものがあるなと思っていて、実は何度もFARM CIRCUSには行ったことがありました。農家さんとのつながりなど、自分たちでは中々できないことを形にされていて、すごいなと。憧れはありましたね。
―一緒にできそうだなと感じましたか?
朝野さん:シンプルに面白そうだなと感じました。私たちも神戸界隈で出店は進めていたものの、北区にはなかったんです。ちょうど北区でも店舗を持ちたいと思っていたところでした。Mother Moon Cafeは、郊外でご愛顧いただいている店も多く、きっと北鈴蘭台の方がすごく楽しみにされてる場所ですし、長く愛される場所としてりやりたいなと。あとは立ち上げのゼロイチをやることもやりがいがありますよね。
―カフェは、ゆっくり滞在される方も多いので、回転率が厳しい業態と言われています。食材にこだわる理由はありますか?
朝野さん:やっぱりお客様に安心安全なものを食べてもらいたい。高山さんも仰っていた通り、地産地消を打ち出すカフェのチェーン店って少ないと思うのですが、私は時代の流れとしても、そうした形をお客様が大切にするようになると考えています。食材にこだわると、中々利益も出づらいですし、流通や管理の面でも大変です。ただ、だからこそ唯一無二のカフェブランドになれると信じています。こうした動きは、志としてありつつもまだまだ道半ばでしたし、今回一緒にやらせてもらう中で、いいシナジーを生むのではないかと思いました。
【毎日変わることが、お客さまにも農家さんにも喜ばれる】
―オープンして4か月が経とうとしています。一緒に運営して、新しくできていることはありますか?
朝野さん:Mother Moon Cafeとしては、食べることと野菜などをその場で買っていただくことがつながったのは大きいですね。
―今までの店舗ではできていなかったのですか?
朝野さん:店舗のスペースや管理の問題もあり、できていなかったのが正直なところです。この場所は、最初からそれを行う前提だったので、ありがたいなと。
―FARM CIRCUSとしてはいかがでしょうか?
高山さん:毎日変わる和惣菜やビュッフェ形式というのは、両社にとって初めての試みなんです。FARM CIRCUSでは、ここのオープン前に実験的にやってみたところ、リピーターの方がすごく多いことが分かり、この場所でもできれば地元の方に喜んでいただけるんじゃないかと思いました。
―そうした取り組みは、農家さんにとってもたくさん野菜を使ってもらえてうれしいですね。
高山さん:ビュッフェや調理をすることによって、野菜のB級品(※大きさや形が不揃いなもの)などもしっかり使うことができるため、農家さんから色んな野菜を買い取ることができます。そうなると、農家さんの収入の向上にも寄与することができるため、そうした目的も達成できるのではないでしょうか。お客さまにも農家さんにも喜んでいただける、そういう形を目指したいですね。
―例えば、今の季節(7月末~8月にかけて)ならではのエピソードはありますか?
高山さん:この時期は気温が上がりすぎるため、トマトの収穫を終える時期でもあるんです。まだ青色のトマトなど、要は捨てていたものが、農家さんから100キロ単位で届きます。通常だとそれは商品になりませんが、例えば漬け物にするなどして、こういう食べ方ができるっていう提案をしています。シャキシャキで美味しいんです。カフェと道の駅のスタッフさんはいろんな研究をしながら、美味しく食べられる方法をお客さまに提供しています。そうした新しい発見は、お客さまにとっても楽しいのではないでしょうか。
―農家さんの収穫状況に合わせた形態にすると、日々メニューが変わり大変ではないですか?
高山さん:お肉などのメインメニューは決まっています。カフェでは、サラダやお惣菜を農家さんの野菜によって日々変えていきます。特に北区は露地野菜(※ハウスなどの施設を使わず、屋外の畑で栽培された野菜)が中心なので、同じ時期に同じ野菜がたくさん揃います。今だとキュウリ、トマト、ナスなどが大量に出てきます。それをいろんな食べ方で楽しんでほしいです。漬け物、煮炊きしたもの、生で食べることも。野菜は同じでも、品種はたくさんありますしね。一年中同じことができないことを逆に活かして、それぞれの旬を楽しんでいただければ。
朝野さん:Mother Moon Cafeも店舗が増えてきて、僕たちがお世話になっている物流では中々そういうことができないので面白い試みです。また、郊外店は大きな厨房を構えることができるので、こうしたことができる強みもありますね。
―Mother Moon Cafeでは自社農園も?
朝野さん:まだまだ小さいですが、料理長が地元の方に教えてもらいながら2~3年前から始めています。将来的には、こういう形でつながったので、北区や西区の野菜を私たちの店舗でもっと使っていきたいなという想いがあります。
【地域の方に愛されて、この場所にあり続けるカフェに】
―今後、この場所の展望はありますか?
高山さん:先ほどあったように、カフェは回転率の問題があり、商売上の難しさはあります。でも、それだったら大きい店舗でやればいいという発想なんです。広ければ、それだけ席数もあるわけですから、お茶一杯でゆっくり過ごしてくださいと。例えばママ友とランチして、お子さんのお迎えまで時間があるから、もうちょっとここでゆっくりしようとか、そんな場所になることを目指しています。
―美味しい料理とゆっくりとした時間、いいですね。
高山さん:あと、飽きない店舗にしたいです。例えば、行く度にお惣菜が違うのは変化じゃないですか。飲食店でよくあるのは、いつ行っても同じメニューで、メニューが変わらなかったら行く頻度は増えません。でも、毎回食べられるものがちょっと違うよねっていう変化があれば、必ずそこを求めてくれる人がいるはずです。
―この北鈴蘭台エリアも、そこまで農村部と接点がある場所ではないですが、つなぐための想いはありますか
高山さん:現在、店舗の前で、毎週水曜日に農家さんが直接野菜を販売する朝市をやっています。出店者には新規就農の方もいて、売る場所のサポートができたらと。また、このエリアから一番近い農村部は山田町です。元々このエリアも山田町の一部が開かれて鈴蘭台になったという経緯もあります。すぐ近くに農村部があるわけですから、そこのお米や野菜を楽しんでもらうことが両社にとっての地産地消ではないでしょうか。Mother Moon Cafeは「Farm to Table~農園から食卓へ~」、我々FARM CIRCUSは「Fun to eat local~地産地消を遊ぼう~」と謡っているので、一番大事にしたいところですね。
―Mother Moon Cafeとしてはいかがでしょうか。
朝野さん:長く続けていくこと、地域のみなさんに愛されることが大切ではないでしょうか。例えば、子どもの頃にこの場所で食べた記憶があり、結婚して子どもが生まれた時にまたこの場所で食べて…っていう存在になれるのが飲食店なのかなと。食や空間、サービスを通じて、生きていく中でのスパイスやきっかけを与えられるような、そんなブランドになりたいです。
―ずっとその場所にあることが大切。
朝野さん:そうですね。地域の方に愛されて、半世紀、1世紀経ったときもこの場所にあり続ける、そういう店にしていきたい。食に関しては「Farm to Table」のtoを担っていきたいです。
―そこがMother Moon Cafeの魅力であると。
朝野さん:今は三ノ宮の再開発も進んでいて、イメージとして港町神戸でやっていますという見せ方もあるかもしれません。けれど私たちは、もう少し山側に意識を向けて、山側も盛り上げるようなことをもっとやれないかと思っています。近くに農産物があるところで新しいことをやりたい。それが神戸の魅力となり、人が入ってくるきっかけになってほしい。ですので、ここが一つのルーツやスタートになったらいいなと思います。ぜひ一度、マザームーンカフェ×ファームサーカス 北鈴蘭台店に足を運んでくださいね