『創業30年からの多角経営 町のお寿司屋さんの挑戦』松鶴寿司/株式会社松鶴・藤原弘法さん

『創業30年からの多角経営 町のお寿司屋さんの挑戦』松鶴寿司/株式会社松鶴・藤原弘法さん

神戸市須磨区では知る人ぞ知る寿司屋の名店が、
無添加調味料の製造・販売で業界に新風を巻き起こしています。
常連客から「これ美味しい!ぜひ売って!」と言われ続けて商品化したポン酢が好評で、
寿司屋のカウンターに立ちながら、会社経営に乗り出しました。
そんな藤原さんの味にかける思いと未来についてお話を伺いました。

【敏腕営業マンをヘッドハンティングしての起業】
創業昭和61年のお寿司屋さんをお父様と二人で経営している藤原さん。
いわゆる“町のお寿司屋さん”として店を構えてきましたが、
寿司業界は今、繁華街の高級店か安い回転寿司かで二極化がすすんでいるそうです。
「お寿司屋はだいたいカウンターで見れる人数が決まっていて、せいぜい5人が限界です。他に9席ありますが、お刺身とかいろんなことしようと思うと限界があります。何かおもしろい、伸びていくような事業体を・・・と考えていました。」

店のある板宿も町の寿司屋は減っており、三宮のような繁華街での出店を検討する中で、
常連客から好評だった父直伝の調味料の物販をもうひとつの事業の柱にしようと決めます。
そこでまず動いたのは営業マンの獲得でした。
年収が半分になるなど説得材料が乏しい状況で、8回通って説得しヘッドハンティングに成功します。
頼れる仲間と一緒に6年前、無添加調味料を手掛ける製造販売会社「株式会社 松鶴」を起業したのです。

【主力商品の“ポン酢”は、父直伝の松鶴寿司の旨い醤油ベース】
もともと松鶴寿司では、お父様が独自にブレンドした調味料が常連客に大好評です。
ポン酢も土佐酢も醤油からあわせて作り、会社のコンセプトである“無添加”にこだわってブラッシュアップした商品を開発したのです。
調整を繰り返して完成させたことで、普通のポン酢より味が優しく仕上がっています。
味へのこだわりは、白身魚をあわせて食べる専用のポン酢「お魚乃友」の開発へ。
スダチのたっぷりの果汁と際立つ香りが人気で、新商品「塩ポン酢」は試行錯誤の末、
兵庫県・淡路島の古代種、“鳴門オレンジ”の果汁の香りが楽しめる商品に完成させました。
また、積極的に商工会議所や神戸を代表するブランドとして販促する“神戸セレクション”といった
横のつながりを活用することで、企業との新商品開発の依頼も増え、『揖保乃糸の麺つゆ 海老だし麺つゆ』は、
夏場の主力商品となっています。

順調に見える商品開発ですが、店に並ぶまでにやらなければいけないことは多岐にわたります。
「賞味期限テスト、品質のブラッシュアップ、商品ができたらラベル決めたり、パッケージ決めたり、すごく大変。パッケージで売り行きがだいぶん変わります。どんどんつめていかなくてはいけません」現在、製造は藤原さんと職人を含めた10人。
「美味しくて安全なものを届けたい」との思いを事業化する夢に藤原さんがもうひとつ、
手掛けたかったことがありました。

【障害者雇用で地元に貢献する事業体を目指す】
事業を立ち上げるにあたって、教えてもらったのが障害者事業でした。
「雇用促進も入った何か面白い事業体をと考えていたので、障害者福祉事業も一緒にやることにした。」
藤原さんが取り組んでいるのは、就労継続支援事業A型と呼ばれる、雇用契約を結び利用する福祉サービス。
契約を結ぶのは、身体障がいや知的障がい、精神障がい、発達障がい、難病がある就労移行支援の利用や特別支援学校での就職活動で、就職には結びつかなかったといった事情を抱えた人たちなどに、
就労の場を提供し支援することで、一般企業へ戦力として就労される方を生み出すというものです。
現在30人が働いておりラベルを貼ったりビンを磨いたり、
経理や事務など特性に応じた作業をそれぞれに割りあて働いてもらっているそうです。
「よく取材で福祉事業者の商品扱ってはどうですか?と聞かれるが、全然むしろクオリティ高いくらいだと思う。うちはむしろ、福祉事業やからっていう売り方は一切してない。それをすると話しが変わってくるなと思って。」
「もともと就労A型って社会に出ていくための事業所なんです。利用者さんがうちで仕事をして、もう一回一般に進んでいく。福祉事業としてものを売ると、それって福祉じゃないですか。」
「一般の人が作る同じものが作れるようになるから一般に戻れると思ってるんで。福祉として売るのではなく、一般の商品として価値が評価されるものを作らなくちゃいけないねと。」

「売り上げが上がると障害者さんの給料に還元していける」
福祉と事業体が一体となって目指す方向性をこのように語る藤原さん。
「しっかりした雇用契約を結んでいるし最低賃金を守り、しかもそれ以上の賃金を渡しているし有給もある。しっかり売り上げを上げないといけない。だからしっかり仕事をしてもらわないと困る。“社会に出るとこんだけ厳しいもんやで”ということを理解するのも大切だと考えている。」

【寿司屋の強みを生かして、さらに前へ】
和食の知識はいっぱいあるが会社のキャパシティーの問題などが課題だといいます。
年間できっちり考えているわけではないそうですがいいアイデアがあったり、
ご縁を大切にして躍進したいという思いを感じました。
味のこだわりは、寿司屋「松鶴」の厨房にあります。
「お店の味噌は合わせ直している。神戸で赤みそだけの味噌はそれだけだと辛い。白みそとお酒、みりんを入れて練り直す。白みそと赤みそのブレンド。そこに粉カツオを入れて練り込むと、かつおだし入りのお湯を注ぐだけで味噌玉のできあがり。」
「しゃりに使うお米は5種類。父がブレンドを決めていて、米屋さんにブレンドしてもらっている。最近はここまでお米にこだわっている店はない。コシヒカリは朝食向き。やわらかく甘みが強い。だから寿司に使いたい。だけど、もともと甘いものに酢を使うとどうしてもべしゃっとする。そこでもう少し硬いやつと混ぜるとちょうどよくなる。企業秘密ですけど。」
「なんでも作れるがそれと値段があうか、とは別。すべての添加物をぬいてエキスを使わずに作るので、極端に値段が上がることは多々ある。アミノ酸、化学調味料が入るとその味が残る。食べ続けるとあまりわからないが、食べなくなると一発でわかるようになる。」
「うまみ成分は強いが同じような味になる感じ。嫌いな人も増えていっているからしっかり美味しいものを作れば、大手との差別化もできると考えている。」

もう一つの事業に考えているのが「お惣菜」です。
店舗当たりの冷凍製品のスペースは少ないので、そこに商品を置いてもらうよりも、
常温商品の方が今以上に間口が広く展開できるのだそうです。
しかし、ネックになるのは設備投資。
「常温調剤としてやろうと思うと滅菌機がいる。130度くらいで4から5分、ビンごと熱せれる機械がある。それをやらないと真空の中でも生きてる菌が何匹かいてそれが活性化してしまう。その機械が一台、安いので300~400万円。小型で300万。大型なら1000万円くらい。高い・・・」
常温商品はお土産としての販売も可能に。
冷凍は自宅用がほとんど。
それがお土産で買って渡すとなると売れる数が違ってくるそうです。

起業、福祉事業への参画、さらに今後はこれまでの商品開発と販売のノウハウを生かした
“創業支援”も手掛けてみたいと夢は膨らみます。
「自分がすごい美味しいとおもっているものを、他人に同じように作らせるのは無理だと思う。自分が一番美味しいと思うものは自分が作らないといけないと思う。やらすのであればちょっと下を向いて作るか、もう居酒屋さんみたいにぐっと下げてやるのか。海鮮丼屋さんとか。
そっちやったらできるかなと思うが、寿司屋をやるなら自分が立った方がいいかな。」
藤原さんの味と素材へのこだわり情熱が、新規事業挑戦の原動力だと感じられる取材でした。

※記事は取材当時の内容となります。
【記・撮影 谷口】

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