『人がつながる畑と季節を実感する暮らしの提案』さとのくらしfarm石田篤さん

4年前、石田さんが妻と二人の子供たちを連れて移住したのは、
神戸市北区大沢町。
日本の里山の風景が美しいこの地区に魅せられ、
大阪にある会社に通勤しながら畑を耕し、
収穫した野菜を販売する仕事を始めました。
“農業と人のかかわり方”や“本当に味わってほしい自然の恵み”についてお話を伺いました。

【妻と一緒に大奮闘!それは、イノシシと虫との闘いから始まった…】
妻が大沢町に月に一度、神戸大学で有機農業を研究されている
保田先生が主催する「有機農業教室」に通っていたのが縁でした。
いつくも理由はあるそうですが、ここに移住を一番の理由は景観の管理ができている印象だったといいます。
「畦草の管理。それが、結構、ここに決めた理由だった。そのことは大事。それでも荒れてきたと地元人は言っている。町の人がきて、『ああ田舎空気いいな、雰囲気いいな』は自然にできてない。そこに住んでいる農民がちゃんと草をかって、稲を植えているからそうなっている。」
今作っているのは、夏の残りの茄子、ピーマン、おくら、トマト。
この後、秋の野菜に切り替わっていきます。
さつまいも、落花生はすでに掘り起こしの時期ですが・・・
「今、草をきれいにすると猪が狙ってくる」
移住後の4年間のうち2年は全てイノシシが完食。
その畑の様子は「収穫意欲をすべてうばわれる感じ」だそうで、今も苦労の連続です。
志した無農薬栽培ですが、虫も元気!
オクラについた幼虫が、植えたばかりの幼い大根の草について食べてしまったり、
草を刈ればそこにまた虫がつく・・・
「草を刈ると刈った後の草が目立って、またそこにムシがつくんじゃないかと。もう何が正解かわからない。」

【会社では規格品の野菜の流通、自宅は規格外の野菜という間で】
石田さんが勤める会社は、生産委託してあらかじめ作ってもらった有機野菜を仕入れ、
販売先につなげる“流通”が仕事です。
有機栽培とはいえ大規模に作り、スーパーに流通させるとなると、
形や大きさを基準に合わせて作ってもらわないといけません。
「お米もにわとりに卵を産ませるのも、生産効率が悪いし見た目も悪い。流通にはのらないがやはりおいしい。食べるタイミングに収穫しているのがさらに良いと実感している。そもそも、昔の人はそうだった。」
自分たちの自給的に食べる分を作ろうとスタートしたことが、
やがて暮らしの提案をしたいという思いになっていきます。
「僕たちが食べる同じタイミングで収穫して、
ボックスにつめてお届けする」
『めぐみをシェアする』野菜の定期販売は、
そんな思いから始まりました。
お試しセット(2500円税込)から始め、しっかり検討してもらった上で、
毎週、隔週、月一回のコースから選べる定期申し込みを選んでもらうという仕組みです。

「めちゃめちゃ糖度の高いとか、ツヤツヤで立派な茄子とか、そういう技術はない。でも、時期にあわせてタネをまくと、それなりに立派に育つ。旬を外さずに作って食べたい時に収穫するから、鮮度がいい。
茄子は7月から10月まで収穫するが、7月と10月で味が違う。それが面白い。はじめ美味しいなと思ってたら、だんだんあっさりしてきて最後の方はタネがあたるな…と思ってシーズンが終わる。そういう変化って、一軒の農家とつきあるからこそ、できる。そういうマニアックだが、畑の日常ってそういうこと。」

未完成な部分も消費者の皆さんに楽しんで欲しいという石田さん。
野菜はとにかくいろんなサイズのものがあり、年によってとれる量が違ったり形が違ったりということの方が、
本来おもしろいのではないかと考えています。
そして野菜を買ってもらっている人たちの畑でもありたいとの思いから、一か月に一回畑を解放しています。
それは農業イベントというよりは、一緒に野良仕事を手伝ってもらうというスタイルです。
茄子の支柱をたてたり竹林の整備をしたり、草刈りをしたり食べ物を作っていることろに来て見てもらうことで、野菜のサイズや形、収穫量を実感してもらえるのではないかということでした。
「ああ!イノシシの被害にあわなかったさつまいも!というのも一緒に楽しんでもらえる人たちとつながっていたい。」
【都会の人を受け入れるための農業イベントからの脱却】
農家さんと町の人という感じではなく、もっとフラットに連携できることがあるのではないか、という思いが移住してから考えています。
イメージは、『友達の稲刈りを手伝いに行く』という感じです。
月一回、農業イベントをしますと、イベントに参加するだけで
持続的な関わりにならず、結局、農業から遠ざかっていくことになるといいます。

「僕らの幸せのためだけに移住しやすくなるのもいいが、移住したからにはそのタイミングかそれ以上の状態を維持するような関わりを、移住者がどれだけできるか。」
「自分らのことで頭がいっぱいだが、そのことも考えていかないといけない。人口が維持できました、といっても自治会をやりません、とかいうと意味がない。地域とどう関わっていくか」
野菜が欲しくてというより、田舎暮らしをしたいから、という人がアクセスしてくることが多いそうです。
やって来た人たちは石田さんが自ら案内して歩きます。
「専業の人をもっと入れるのか、もっと自分たちが専業になるのか。小さい農家が多いので、補完しながらやっても限界がある。今は、『こんなことがしたいな』を具現化したところ。僕たちのやり方に理解のある食べる人が何人かいるという実体験がもっといる。世の中に受け入れられる仕組みではないのは理解している。ニッチで楽しもうという人が世の中にいるよね、100人に1人でもいるよね、そういう人でネットワークを作っていけると、そこからさらに生産を増やすにはどうしたらいいかだよね、ということになると思う」

【出荷先はもっと関西、もっと神戸に密着!】
神戸市の人口はおよそ150万人。
大都市の近郊にこんな豊かな農村があることを知ってもらいたいとの思いから、
出荷先はもっと地元であるべきだと感じているそうです。
極端にいうと外に流通させずに、関西圏内のお客さんを対象にして、
町の人も畑を近くに感じ野菜の味の変化も楽しめる、そんな価値観を伝えたいそうです。
わかりやすいモノサシがない、専業農家ではない、時間はかかっているがローカルの客さんに半年、
一年かけてシフトしたいと考えています。
ほとんどの人はスーパーやネットで買い物します。
どこに行ってもお店の品揃え豊になっており、そのインフラがすごいことを石田さんは認めるものの、
それが大前提でありながら有機農業もそうあるべきとも思っていないのが石田さんが目指す農業です。
「大規模にやろうとすると、神戸の農家の田んぼはちっちゃいし、でも住民とはすごく近い。この場所には、別のアプローチがあると思っている。」

夫婦が会社勤めや子育て、家事をこなしながら出来る範囲で営む移住農業の新たな挑戦。
季節外れの野菜や珍しい野菜を育てて売り上げを上げることより、
今後も旬のだれもが知っている“普通の野菜”を育てて届けます。
野菜を作って仲間づくり、レシピの情報交換といったネットワークの連携など、
直接消費者とダイレクトな関係をローカルで構築していきたい、石田さんの夢は膨らみます。
さとのくらしfarm 公式サイト https://satonokurashi.com
※記事は取材当時の内容となります。
【記・撮影 谷口】